「1/fゆらぎ」とは? 音とゆらぎの密接な関連性
「1/f(エフブンノイチ)ゆらぎ」というものはご存知でしょうか?
例えば、パソコン、冷蔵庫、雨、打ち寄せる波、それらの音は文字にするとそれぞれ「ザー」という同じような表現ですが、これらを実際に聞いて人に与える印象は異なりますよね。
パソコンや冷蔵庫から出る音は少し耳障りに感じるのに対し、雨や波の音はどこか心地よく感じるのには、この「1/fゆらぎ」というものが関係しています。
今回はその心地よさの要素である「1/fゆらぎ」について、例を交えながら解説していきます。
ゆらぎについて
ゆらぎが発見されたのは約80年前。パワースペクトラムが周波数fに対するゆらぎです。
基本的に自然界では動かずにじっとしているものはなく、必ず不規則な動きがあり、それを「ゆらぎ」と言い、風や雨、波などが不規則な動きをすることが「ゆらぎ」の代表的な例です。
部屋にいる時に外から突然予期せぬ「ドン!」と音がすると驚くと思います。
これもゆらぎの一種ですが、極端に不規則的なもので、次に何が起こるか分からず不安になるでしょう。
一方、単調で変化がない音楽などをずっと聴いていると安心感はあるものの退屈に感じてしまいます。
これは逆に規則的すぎてゆらぎがない状態だからです。
「1/fゆらぎ」とは、この「不規則的」なものと「規則的」なもののどちらの要素も程よく兼ね備えていて調和され、心地よく快適な気分になる音や感覚のことを指します。
不安にもならず、退屈にもならないゆらぎです。
例えば、前述した風や雨、波などの自然の中で起こる不規則なものや、日向と日陰の入れ替わり、焚き火やキャンドルの炎、小川のせせらぎ、木々のざわめきなどがそれにあたります。
これらが五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)で感じると、体のリズムと共鳴して心地よくなるのです。
さらに細かく言うと、雨の降る音はランダムで不規則ですが、屋根を伝って地面に当たるタイミングなどの規則性も持ち合わせているため1/fゆらぎになりやすい音です。
また、波の音は胎内にいる時の音に似たゆらぎを持っていて本能的に安心感が得られるといわれています。
「音」と1/fゆらぎ
1/fゆらぎは特に「音」が深く関係しています。
音が程よくゆらいでいると心地よくなりますが、その音のゆらぎにはいくつか種類があり、「ホワイトノイズ」と「ブラウンノイズ」、そしてその両方の性質を持つ「ピンクノイズ」があります。
・それぞれのノイズの違いは?
ホワイトノイズは人に聞こえるすべての周波数が均等に混ざっている音で、文字にすると「シャー」というイメージになります。
ブラウンノイズは低めの周波数が集まっている大きな滝のような音で、文字にすると「ゴー」というイメージです。
ピンクノイズはその中間で、文字にすると「ザー」というイメージです。
いずれも、耳障りな音をかき消してくれる「サウンドマスキング」の効果があり、静かな空間を作ってくれるノイズで、リラックス効果や集中力を高めることができるノイズです。
この中で「ピンクノイズ」が1/fゆらぎを持つ音で、生体リズムに最も近い音とされています。
・音楽と1/fゆらぎ
音楽の中ではクラシック音楽が1/fゆらぎを持つ曲が多く、モーツァルトの曲などは規則性と不規則性がうまく重なり、1/fゆらぎを持っていると有名です。
これは1/fゆらぎになるように計算して作曲したわけではなく、自分たちが心地よいと感じる内的衝動によって音楽を作り、その結果が1/fゆらぎとなったのではないかと推測されています。
また、現代ではゆらぎの仕組みが分かっているため、ゆらぎを人工的に作り出すことができます。
いわゆるヒーリングミュージックは、この「1/fゆらぎ」の理論を応用してつくられていることが多く、1/fゆらぎの音楽として作曲することができるのです。
人工的な規則性のない波の音や虫の羽音、鳥の鳴き声など、自然の中にある1/fゆらぎを取り入れたヒーリングミュージックには安心感があり、緊張感もなく、リラックス効果を得ることができます。
「音楽」と「騒音」は同じ音であることには違いありませんが、双方の音響振動を調べると、心地よいとされる音楽は基本的に1/fゆらぎになっているのです。
生体リズムと1/fゆらぎ
生物のリズムも基本的には「1/fゆらぎ」であるといわれていて、規則正しいリズムを持つと考えられている心拍、呼吸、脳波などの生体電気現象のゆらぎにも「1/fゆらぎ」が見られます。
健康な人の心拍データを分析すると、心拍周期の平均値に対して美しい1/fゆらぎになっているようです。
正常に拍動している心臓は、ただ規則正しく拍動しているだけでなく、1/fゆらぎがあるからこそ、人間の生命が成り立っているといわれています。
また、脳波のアルファ波の周波数変動も同様で、人間の神経細胞が発する生体信号の間隔が1/fゆらぎだとされています。
私たちが1/fゆらぎに心地よさを感じる理由には、生体に埋め込まれた情報が大きく関係しているのかもしれません。
生活家電にも導入されている1/fゆらぎ
生活家電で私たちが自然とゆらぎを作り出している例もあります。
その一例が「こたつ」で、こたつは基本的には設定した温度を常に維持するように設計されていますが、「暑い」「ぬるい」と感じた際に、温度設定のつまみを頻繁に調節してしまうことはありませんでしょうか?
また、扇風機の風向きを一定にせず、首振り式にしている人も多いと思います。
一定の風を当て続けると冷えすぎたり、微風だと暑く感じたりするので、扇風機を首振りモードにして風量の強弱を調整すると快適なのです。
このように、温度に関しても私たちは知らず知らずのうちに一定であるよりも、変化する状態を好んでいることがわかります。
最近では、快適性を追求し、より自然の風に近い風量が不規則に変化する「1/fゆらぎ」を作り出せる扇風機も開発・商品化されています。
さらにキャンドルや焚火をモチーフにした、ゆらぎを出すために開発された玩具も存在しますので、気になる方はチェックしてみるのも良いでしょう。
ゆらぎがあると困るものは?
稀に、日常生活でゆらぎがあることで困ることや、問題になることもあります。
その典型的な例が階段で、下の段だけ微妙に高さが違う階段に遭遇すると、つまずきやすくなります。
定規やはかりなどの計測器もゆらいではいけませんし、時間の刻みもゆらぐと困ってしまいます。
また、1/fゆらぎについても、それがいつでもどこでも、必ずしも心地よいものであるとは限りません。
時間や場所、心理状態によっては鳥の声や風鈴が耳障りに感じたり、風や波の音が気になって眠れなくなったりすることもあります。
ゆらぎを扱ったり、取り入れたりするのにも適切な環境やタイミングが必要なのです。
日常生活からゆらぎが減ってきている?
現代の私たちは自分の生体リズムではなく、時計が示す時間に従って行動しています。
手作りの製品から工場で生産される規格品へ、野菜は大きさを揃えて出荷され、森林は伐採されて公園になり、街路樹は等間隔に植えられ、ゆらぎを失いつつあります。
森林浴に行ってみたり、農家直販売の不揃いの野菜を購入してみたりすると、違いがよくわかると思います。
工業の規格によって大量生産されている人工物もゆらぎがなくなっている一つの原因で、正確性はプラスに働くこともありますが、ゆらぎという面ではマイナスになることが多くあります。
1/fゆらぎを利用してリラックス時間を作ってみよう
もしも日常生活を送っている上で、疲れが出ていると感じた時や、集中したい時、リラックスをしたい時には、自身で意図的に1/fゆらぎを作り出してみることをオススメします。
手軽に作り出す方法として、1/fゆらぎのあるクラシック音楽や、自然音、さらに波や焚き火の動画も存在しますので、それらを活用するのが良いでしょう。
時には静かな部屋で、何にも邪魔されずに存分に1/fゆらぎの世界に浸ってみてはいかがでしょうか?