音楽療法士の1日の仕事スケジュールは? 現場での流れについて

音楽療法士は、医療や福祉、教育の現場で必要とされている専門職で、演奏技術だけでなく、心理や福祉の知識を活かしながら、人の心や身体に寄り添うプロです。
今回は、音楽療法士がどんなスケジュールで働いているのか、施設勤務とフリーランスの働き方を、音楽以外の業務内容とあわせて詳しくご紹介します。
施設勤務のスケジュール(フルタイム勤務の1日の流れ)
施設で正職員として働く音楽療法士は、比較的決まったスケジュールで動くことが多いです。
例えば、高齢者施設や医療機関、障害支援施設などで常勤する場合、勤務時間は9時~17時のような日勤帯が基本になっています。
出勤後、まずはその日行うセッションの準備から始まり、参加する利用者の体調や前回の様子を確認しながら、選曲や楽器の配置を整えます。
10時頃から午前のセッションが始まり、グループ形式で季節の歌や簡単なリズム活動を中心に行うこともあれば、個別対応でリハビリ的な要素を強く出すこともあり、施設の目的や対象者によって内容は大きく異なります。
昼休憩を挟んだ後は、午後のセッションへ移りますが、午前と同じ利用者であっても、体力や集中力を考えて活動の内容を少し緩めたり、午後に元気が必要な人には盛り上がるような曲を使ったりと、柔軟な対応をしていきます。
セッションが終わったら、片付けや記録の作成、スタッフとの情報共有、利用者の状態報告を行い、ここでは看護師や介護職員とのチーム連携が大切です。
事務作業に追われる日も少なくありませんが、毎日通ってくれる利用者との関係が深まりやすいぶん、信頼関係を築いていける魅力があるでしょう。
フリーランスのスケジュール(掛け持ち、出張型の働き方)
施設勤務と同様に多いのが、フリーランスとして複数の現場を掛け持つ「出張型」の音楽療法士という働き方です。
ひとつの職場に常駐せず、週に数回ずつ決まった曜日に訪問したり、単発のイベント対応を行ったりと、自由度の高い働き方になります。
例えば、午前中はデイサービスでの高齢者向けグループセッションを行い、午後は障害者施設での個別対応、夕方には放課後等デイサービスで子どもたちと音楽活動、というように1日に数ヶ所移動する人もいれば、病院や緩和ケア病棟など、医療寄りの現場に特化している人もいます。
この働き方での大きなポイントは、移動時間と準備の切り替えです。
現場ごとに対象者の年齢、状態、目的が全く違うため、使う楽器やプログラムも当然変わり、荷物の準備や持ち運び、移動のタイミング、予備の機材も頭に入れておかなければなりません。
また、施設ごとに契約形態や報酬体系も違うので、スケジュール管理と請求、会計業務もすべて自分でこなすため、月末に「出張報告書」「活動記録」「請求書」などをそれぞれの法人に提出するような事務作業も多く、個人事業主としての動きが必要とされます。
そのぶん、ライフスタイルに合わせて働けるのがメリットで、子育てと両立したい、週3だけ働きたい、あるいは特定の分野に特化したいという、独立志向の強い人には合っている働き方といえるでしょう。
音楽療法士が行う音楽以外の仕事とは?
音楽療法士は、裏方仕事をどれだけ丁寧にこなせるかが、現場での信頼にも直結してきます。
まず欠かせないのが記録の作成で、セッション内容や使用曲に加え、参加者一人ひとりの反応や表情、行動の変化を丁寧に記します。
医療や介護の現場では、こうした記録は支援の根拠となるため、音楽療法士も専門職として、客観的かつ具体的な記述が求められるのです。
また、打ち合わせやカンファレンスへの参加も重要で、施設に勤務している場合は、介護職、看護師、理学療法士、作業療法士、ケアマネジャー、医師と連携して利用者の支援方針を共有するミーティングが定期的に行われます。
ここでは音楽療法士が観察した変化や関わりの中での気づきを発言し、チーム支援の一端を担います。
そのほかに、楽器や備品の点検、メンテナンス、資料の作成やプログラムの企画書づくりも日常業務の一部で、対人支援職である以上、利用者やその家族とのコミュニケーションも非常に大切です。
音楽療法士の仕事に向いている人はどんなタイプ?
音楽が好き、人の役に立ちたい、誰かを元気づけたいという思いを持って音楽療法士を目指す人は多いですが、実際の現場で長く活躍する人たちには共通点があります。
まず挙げられるのは観察力がある人で、音楽療法の現場では、「利用者がどんな反応をしているか」「今どんな気分か」「どの音にどのようなリアクションを見せたか」などを細かく読み取る力が求められます。
言葉でうまく伝えられない利用者と関わることも多いため、表情、動作、視線から心の状態を汲み取る姿勢がとても重要になるのです。
また、セッションは基本的に予定通りには進まないケースも多く、その日の利用者の体調や気分で、プログラムを変更する判断を求められる場面もあります。
そのため、完璧主義よりも、その場の空気に合わせて一番良い形を探していける柔軟性のある人が向いているといえるでしょう。
そして、対人関係において聴き手に回れるのも大きな強みになります。
音楽を使う仕事ではありますが、常に自身が前に出て演奏するわけではなく、利用者の反応を引き出すこと、寄り添うことに重きを置くからです。
このような点から、「話す力」よりも「聴く力」「共に感じる姿勢」が信頼を生むポイントになります。
さらに、音楽療法士の仕事は目立つものではなく、利用者との信頼関係を築く中で、すぐに成果が見えにくく悩む日もあるでしょう。
そんな中でも地道に記録をとり、準備を続け、試行錯誤できる人が、最終的に信頼される存在になっていくのです。
音楽療法士の現場で必要な防音対策とは?
音楽療法士の仕事は音を扱う職業なので、防音対策は欠かせず、周囲への配慮が求められます。
高齢者施設や医療機関、福祉施設では、活動室が防音仕様になっていることは稀で、壁が薄く、廊下まで音が響くようなつくりも多いため、セッションの音量や時間帯には気をつけなければなりません。
ピアノの強打や打楽器の使用は控えめにしたり、使用時間をずらしたりする工夫も必要です。
また、病院内で行う際には、病室での演奏や病棟の近くで活動をすることもあるため、音量、楽器選び、扉の開閉音まで細やかな配慮が求められます。
フリーランスで自宅を使用する場合や、利用者宅への訪問時の演奏も防音対策が欠かせません。
特にマンションの一室でセッションを開催するなら、事前に遮音、吸音グッズを設置する、時間帯に気を配る、階下への振動対策を取るというような対応が必要です。
イヤホン型の電子楽器や、サイレント(消音)ピアノ、電子パーカッションなどを使用するケースも増えており、デジタル機材を取り入れると音の制御がしやすく、音楽療法の幅が広がります。
そして、利用者自身の音への敏感さにも注意しましょう。
聴覚過敏のある利用者や、大きな音がストレスになる利用者には、ヘッドフォンやイヤーマフを使用したり、そもそも静かな活動に切り替えたりする判断も求められます。
音楽療法士の仕事は、どんな音が、誰に、どの環境で響くかの見極めが、安全で安心な支援につながっていきます。
音楽療法士の1日は音楽だけじゃない奥深い職業
音楽療法士の1日のスケジュールを追ってみると、ただ音楽を届けるだけの仕事ではないことがわかります。
施設勤務ではチームの一員として日々の流れに沿って活動し、フリーランスでは現場ごとの対応力とセルフマネジメント力が必須です。
「音楽が好き」というだけでは難しいかもしれませんが、それでも「音楽で人と関わりたい」「誰かの日常に寄り添いたい」と思う人にとっては、やりがいを感じられる仕事でしょう。
音楽以外の地道な業務があるのを踏まえて、音楽療法士という選択肢をぜひ検討してみて下さい!